蘇った!ペンタの蹴球日記

あの世から蘇ってきた蹴球老人の日記

「やれやれ終わった」

わしは寺T毬のはまなす3階会議室で、5人のインフォマントたちに礼を言い、送り出した後、円卓の上の録音機を見て絶句した。

 

一時間半にわたって5人の取材対象とわしが喋りまくった内容が、そのハードディスクレコーダに記録されているはずだったのである。

 

わしは自宅までクルマでぶっ飛ばして帰り、代表戦でも見ようかと考えていたところだったである。なんせ最近の代表戦は興味が抱けず、わしはNHKの時代劇「ぼんくら2(第4回)」を録画予約してあり、代表戦を見るには生で見るしかなかったのである。

 

それとも、もっとぶっ飛ばしてこのままプールへ行き、水泳教室の仲間たちに愛想を振りまきに行こうか?木曜日の水泳教室には最近、27歳のアイススケート美女「金ちゃん」が入ってきて、一気に盛り上がっているのである。「金ちゃん」は、御山に住み、近眼で、金魚のような目をしているが、大学時代まで氷上でくるくる回ったりしていただけあって、長身、長腕、長脚のスタイルの良い子なのである。

 

そしていつもわしの後を泳いで来て、水を飲んだりすると、「ペンタさんのせいです」とか言って、甘えてくるのである。

 

そんなくわあいい金ちゃんの会いたくて、寺T毬のはまなすからぶっ飛ばしてもおかしくないというものである。

 

じゃが、録音機には、無情にも、2秒という表示が出ていた。わしは、録音スタートさせた直後、ポーズスイッチを押してしまったらしいのである。

 

一時間半の録音が、2秒しかされていなかったのじゃ!

 

しかも、司会進行に夢中になるあまり、わしはメモも一切録っていなかったのじゃ!

 

おいおい!

 

5人の人間が、わしも含めると6人の人間が、入れ代わり立ち代わり一時間半話しまくった内容が、2秒しか録音されていないとは、どういうことか!わしはそれを元に、記事をしげなくてはならぬのに、どうすりゃいいのか!

 

わしの全身から血の気が引いていった。

 

分量にして、新聞見開き2ページくらいの記事になる予定であったのである。

 

この寺T毬の取材にこぎ着けるには、いろいろ苦労することが多くて、7月から取組み、挫折やら組み立て直しをくりかえし、10月になってやっと取材相手が決まり、それからも暇を見つけては、寺T毬に通うこと、4回、今日で5回を、費やしてきた。

 

その苦労がやっと音として記録され、それを文字に起こすことで、報われる。とりあえず、録音してしまえば、文字にするのはすいすい。明日やろう。

 

そんな安心感のなか、わしは代表戦や、金ちゃんのへたくそな息継ぎのことを考えていたのである。

 

☆     ☆     ☆

 

「このまま、今出ていった5人をおいかけ、もう一度最初から座談会をやり直してくれとお願いしようか?」

 

わしは考えた。

 

「いやいや無理だ。KJ魚類の社長は、次の会があるんで、と急いでかえっていったし、金曜八時の社長もN山製菓の食事の誘いを断っていた。今更もう一遍座談会をやりなおしてくれなどと頼んで、戻ってくれるわけがない」

 

はあはあ。

 

わしは久しぶりの絶体絶命感を味わっていた。

 

「落ち着け。なんとかなるさ」

 

「いや、聖徳太子でもあるまいし、5人が一時間半話したことを思い出して、それを文字にできるもんか?」

 

「いや、おぐのO氏が3時間話したときは、録音禁止だったぞ。あれもなんとかまとめたし」

 

「あのときは、詳細にメモしただろ。そのメモに従って書いたからさ」

 

「でもさ、結構覚えているぞ。ほら、あの右側のおばはんが話したこと、6テーマくらい思い出せるぞ」

 

「でもさ、KJ魚類の社長の発言はどうだ?」

 

「う、一つしか思い出せない・・・あの人に興味が持てなかったし」

 

「そうだろ。そうだろ?どうすんだ?」

 

☆     ☆      ☆

 

思い出してみると、今週はさんざんであった。

 

月曜日にぎっくり腰になり、火曜日にパソコンのモニターが故障、水曜日に飲み屋のねーちゃんに失恋。

 

いや、それは冗談だが、わしは本業の方も忙しく、おいまくられ、追い詰められているのじゃ。とにかく、今週は何がなんだか、わからないのである。

 

そして、木曜日のこれである。

 

☆     ☆     ☆

 

「とにかく、落ち着いてクルマを運転しよう。で、まずは家まえ帰ろう」

 

わしは自分に言い聞かせた。

 

「わかった」

 

わしは答えた。

 

☆    ☆     ☆

 

と、いうことで、代表戦を見なかったペンタである。

 

それどころか、ドルトムントの新監督、トゥヘルのサッカーもチェックしていない。トゥヘルというのはグアルディオラ一族に属する監督で、ポゼッション志向の強い監督だそうだ。前監督のクロップはゲーゲンプレッシングからのショートカウンターのチームを作ったが、それを引き継ぎながら、次第にショートパスーポゼッション傾向を強めているのじゃという。そして最近では、「ロンド・ポゼッション」ともいうべきサッカーを披露していいるのじゃという。

 

な、なに!「ロンド・ポゼッション」とな!それはわしのいう、「鳥かごサッカー」のことではないか!

 

スマホで見かけた記事によると、トゥヘルのサッカーは、中盤と前線の選手によって、相手守備陣を包囲し、その包囲網でパスをつなぎ続けるというスタイルになってきているのだという。

 

まったくそれは、わしの鳥かごサッカーのことじゃ!

 

どうやら、トゥヘルはわしのブログをチェックしているようじゃ。いや、それどころか、わしがフットサル仲間とおしゃべりしているのも盗聴しているに違いない!

 

☆     ☆      ☆

 

なんてことを思う暇もなく、わしはワインをがぶ飲みして、気持ちが悪くなり、ぶっ倒れるようにして眠りについたのである。

 

今日になり、スマホの端末が音声通話機能を失う。新たらしいスマホは、まだメールも、LINEもできず、夕方ようやく通話が可能になる。

 

わしはSIMフリーの契約に乗り換えたのである。今までのソフバンはひと月8000円以上かかっていたのじゃが、それを800円のプランに乗り換えたのじゃ。

 

安倍が言ったとおり、主要3社の料金は異常に高いと思う。

 

早くいろんな機能が取り戻せると良いのじゃが・・・・

 

本当に何がなんだか、わからない一週間であった。