蘇った!ペンタの蹴球日記

あの世から蘇ってきた蹴球老人の日記

ストレス

いとこの子どものチームが選手権予選の決勝を決めた。

 

ここ最近、彼のチームの試合を3試合ほど生観戦していたが、準決勝はインターネット中継で済ませたようとしたら、残念なことに映像が数秒刻みで途切れ、重度の乗り物酔いのようになってしまった。

 

さて、このいとこの子が中学1年生のころからだったと思うが、わしはバルセロナのVTRをDVDに焼いて、送る習慣があった、というか今でもある。小さい紙に解説というか感想を書いてやるのじゃが、書く方も毎回楽しみながら書き送ってやる。

 

彼は中学生の頃、今年Jのチームとプロ契約したKK太の家にそのDVDを何枚も持って泊りにゆき、一緒に見ては明け方近くまで語りあったそうじゃ。

 

KK太は、高校になるときに名古屋へ行ってしまったのじゃが、わしがDVDを焼く習慣は今季も続いている・・・・じゃが、ここへ来て、我がVTRレコーダーの調子が悪いのである。しばしばファイナライズに失敗し、ダビングに失敗するのである。

 

☆     ☆      ☆

 

今回も失敗しているとは露知らず、わしはダビングをセットすると、近くの豊田セブンに出かけた。駐車場にクルマを停め、ドアを閉めると、わしは思わず声に出してしまった。

 

「えんぞんじ!」

 

ちょうど同じタイミングで隣のクルマから女性が出て来て、わしの方をぎょっとしてにらんだ。

 

そりゃそうだ。クルマから出てきて、いきなり、エンゾンジとつぶやく爺がいたら、それは気持ち悪いことじゃろう。

 

☆     ☆     ☆

 

だが、わかってほしい。わしは今、エンゾンジに夢中なのである。

 

エンゾンジは、セビージャの選手である。ポジションはボランチ。このリーガ・エスパニョーラの第11節、サンチェス・ピスファンで、全盛期のブツケツを超えたのではないかと思わせるほど、すばらしいプレーぶりを見せたのじゃった。

 

だいたいこの試合の前半は、セビージャがチームで素晴らしいサッカーをして、まるでバルセロナのようだった。

 

このゲームで、常にノロノロと走り続ける男がエンゾンジである。ノロノロ走っている証拠に彼はいつも、突っ立っている。突っ立って、パスを受け、突っ立ったままパスを出す。そのただのトラップ、ただのインサイドキックが完璧なのだ。

 

先日、U-19のアジア大会の日本代表の試合も全試合をチェックしたが、この中にはまともにキックを蹴れる選手が一人もおらず、見ていて非常にストレスであった。優勝はしたものの、応援しながらげっそりした。

 

わしの頭がおかしくなったのか?そう思っていたところへ、このエンゾンジである。

 

素晴らしい!エレガントである!優雅である!

 

この、ノロノロ走り、突っ立ったままの姿勢で味方のパスコースを一つ増やしてやり、そして実際にパスが来て、さらにポンとつなぐ。これによって、様々な操作を実は行っている。

 

もちろん、こういうことのできる選手は、かつてバルセロナにたくさんいたわけで、シャビしかり、ブスケツしかり、恐らくペップもこのような選手だったのじゃと思われるが、その伝統が、バルセロナではなく、セビージャに繋がれたことに、わしは衝撃を受けるとともに、一筋の光も見た。

 

まぁ、よくよく振り返ってみると、遠藤だってこのタイプ、この思想を持つ選手だったわけだし、レアルのモドリッチもレアルに行って少し変わってしまったけど、もともとはこういうタイプの選手であった。

 

「自分が走らず、ボールを走らせる」これは、サッカーの理想だが、実現するのは実に実に、実に難しい。

 

それともかく、わしが少し前から注目しているビエルサ一族、その一族に名を連ねるサンパオリは、ビエルサ一族の必然で、選手に絶対の献身とハードワークを要求する。

 

このビエルサ一族のベリッソのセルタも、先日素晴らしい試合でバルセロナを破ったが、この日の試合を見る限り、チームの完成度、エンターテイメント性の高さでは、ぐっとこのサンパオリの1年目のチームの方が上である。

 

実際、前半のスタッツでは、ボールポゼッション、パス本数ともバルセロナを上回り、わしの記憶が正しいならば、決定機の数、シュート本数も多分セビージャが勝ったと思う。さらに言えば、観ていて楽しいのもセビージャであった。

 

そのセビージャのサッカーは、だが、ただのポゼッションサッカーではないわけで、もちろん素早い切り替えからのショートカウンターあり、引いて守ってからのロングカウンターあり、もちろん丁寧なビルドアップあり、の、いわゆるサッカー偏差値の高いサッカーをしている。

 

このサッカー偏差値の高さを保証しているのが、10番ナスリと、15番エンゾンジである。

 

☆     ☆      ☆

 

ナスリは、わしの思い込みのせいなのか、もっと我の強い選手で、チャレンジングなプレーをする印象が強かったのじゃが、この試合は、ぐっと大人のプレーを披露していた。スペースへ気の利いたタイミングで走り、味方のDFからボールを受けてやる、という心得が非常に秀でている。

 

もう一人のエンゾンジも、常によたよたと、のたのたとボールに接近し、パスを受け、パスをさばく。それが実に完璧で、ぐんぐんチームがリズムにのってゆく。ほとんどワンタッチ、ツータッチでプレーするのじゃが、そのタッチ数の少ないパスの中に、驚きが満ち溢れている。

 

ハードワークで鳴るビエルサ一族のチームに、こういうノロノロ系の選手が存在して、ぽんぽんとパスをつなぐということが、驚きであり、新鮮であり、正直に言うと、わしはまだ理解できない。

 

こういう不思議に出会うこと、これがまぁサッカーをやったり、観たりすることの醍醐味であろう。

 

☆     ☆     ☆

 

わしの抱いている不思議がわかってくれるじゃろうか?

 

☆     ☆     ☆

 

 

というわけで、この今季最高の試合をダビングしていとこの子に送ろうと思ったが、家に帰り、チェックしたところ見事に失敗していたのであった。

 

残念だが、13日はビックスワンに行くつもりである。かの地では、昨年と同じカードの決勝となった。